経口カリウム製剤といえば塩化カリウムやL-アスパラギン酸カリウムなどの錠剤や散剤があります。嚥下困難時や経口から経管投与に切り替えとなった際に製剤の切り替えについて医師や看護師から相談されることがあるかと思いますが、処方提案する際に注意すべき点があります。
代表的な経口カリウム製剤とカリウム含有量
よく使われる経口カリウム製剤のカリウム含有量を表記します。たまに塩化カリウム末を持参される患者さんもいますが今回は省略します。
一般名 | 代表的な製品名 | カリウム含有量 |
塩化カリウム | 塩化カリウム徐放錠 | 8mEq/1錠(600mg) |
L-アスパラギン酸カリウム | アスパラカリウム(錠・50%散) | 1.8mEq/1錠(300mg) 2.9mEq/1g(500mg) |
グルコン酸カリウム | グルコン酸K(錠・細粒) | 2.5 or 5mEq/1錠 4mEq/1g |
過去の失敗例
何も知らなかった頃に経験した失敗例を紹介します。
塩化カリウム徐放錠を内服していた患者さんがいました。錠剤が大きく内服が困難とのことで散剤への変更ができないか看護師より相談を受け、下記のような変更を医師に上申しました。
【変更前】
・塩化カリウム徐放錠600mg 2T/朝・夕食後 (Kとして16mEq/日)
※変更前の血中K:4.1mmol/L
【変更後】
・L-アスパラギン酸カリウム散50% 5.4g/毎食後 (Kとして15.66mEq/日)
上記の通りだいたいmEqが同じになるよう処方提案しました。その後、処方変更後の初回採血結果を確認したところ血中Kが5.5mmol/Lまで上昇しており、主治医に報告し直ちに経口カリウム製剤が中止となりました(上記以外の薬剤変更はなく、腎障害等はありませんでした)。
どうしてこのような結果になったのでしょう。それはカリウム塩の違いによる体内動態の違いを理解せず処方提案したためです。それを解説していきます。
L-アスパラギン酸カリウムの体内動態
L-アスパラギン酸カリウム製剤であるアスパラカリウムの添付文書に次のような記載があります。
また、インタビューフォームには次のような記載があります。
インタビューフォーム1)の論文(檜垣 鴻 他:薬学研究1963;35(6):209-225)によると、塩化カリウム投与後の血漿中K濃度の上昇率は約80%、赤血球中K濃度の増加率は約2%なのに対し、L-アスパラギン酸カリウム投与後の血漿中K濃度の上昇率は約30%、赤血球中K濃度の増加率は約12.5%とのことでした。
インタビューフォーム3)の論文(高安久雄 他:泌尿器科領域アスパラギン酸塩研究会研究報告集1965:23-25)によると、L-アスパラギン酸カリウムは塩化カリウムの約2倍細胞内に移行しやすいようです。
イヌでのデータですが、L-アスパラギン酸カリウムのほうが体内保有率が良好との結果もあります。
これらのことから、L-アスパラギン酸カリウムは塩化カリウムより組織移行性及び体内保有率ともに2倍以上優れていることがわかります。
実際の投与設計
結論から述べます。カリウム塩による体内動態の違いを考慮すると、L-アスパラギン酸カリウムは塩化カリウムの半分のmEq量で同等の薬効が期待できます。
なので先程の例ですと
【変更前】
・塩化カリウム徐放錠600mg 2T/朝・夕食後 (Kとして16mEq/日)
【変更後】
・L-アスパラギン酸カリウム散50% 2.7g/毎食後 (Kとして7.83mEq/日)
とすればよかったことになります。当時の僕は2倍の薬効となる量を提案してしまったため血中K値が急増してしまったのだと思います。
また、添付文書の常用量を比較してみると、
製品名 | 用法用量 |
塩化カリウム徐放錠 | 1回2錠を1日2回 |
L-アスパラギン酸カリウム | L-アスパラギン酸カリウムとして1日0.9~2.7gを3回に分服 |
上記の通りですが、これをmEq表記に直してみると
製品名 | 用法用量 | カリウムの1日量 |
塩化カリウム徐放錠 | 1回16mEqを1日2回 | 32mEq |
L-アスパラギン酸カリウム | L-アスパラギン酸カリウムとして1日5.8~16.2mEqを3回に分服 | 16.2mEq |
このようになります。添付文書に記載されている用法用量における最大量を比較してみると 上記の通りL-アスパラギン酸カリウムは塩化カリウムの半分のmEq量となっていることに気付けます。
※なおL-アスパラギン酸カリウムは症状により1回3000mg(18mEq)まで許容されますが、あくまで常用量同士の比較と考えてください。
また、グルコン酸カリウムをL-アスパラギン酸カリウムに切り替える際は40%量のmEqにすればよいと言われており、実際に添付文書の用法用量(常用量)の最大量を比較するとグルコン酸カリウム40mEqに対しL-アスパラギン酸カリウムは16.2mEqなので、たしかに40%量となっております。
実はこの件についてメーカーに問い合わせたことがあるのですが、学術担当からは「塩化カリウムからL-アスパラギン酸カリウムに切り替える際はmEqが50%量に、グルコン酸カリウムからL-アスパラギン酸カリウムに切り替える際はmEqが40%量になるように調節してください」と案内されました。その根拠は上記の通り、カリウム塩の違いにより体内動態が異なってしまうためなのだと考えられます。
まとめ
①塩化カリウム → L-アスパラギン酸カリウムに切り替え
mEq量として塩化カリウムの50%量となるようL-アスパラギン酸カリウムの投与量を計算
②グルコン酸カリウム → L-アスパラギン酸カリウムに切り替え
mEq量としてグルコン酸カリウムの40%量となるようL-アスパラギン酸カリウムの投与量を計算
上記に注意して処方提案できたらよいかと思います。
ただし実臨床では電解質バランスは様々な要因で変動するため、薬剤変更後は必ず採血データを確認して定期的にフォローアップすることを忘れないようにしましょう!
おまけ L-アスパラギン酸カリウム散の簡易懸濁
L-アスパラギン酸カリウム製剤であるアスパラカリウムのインタービューフォームを見たことはあるでしょうか?そこには次のような記載があります。
溶出試験の結果ですが、溶出率は水だと5分で約75%、10分で約80%、定常状態でも約85%程度です。これに対しpH1.2(胃酸を想定してください)では5分で100%溶出します。また、アスパラカリウム散は添加物が水に不溶のため経管投与する場合はチューブ閉塞を避けるため上澄み液のみを投与することが推奨されています。
何が言いたいのかというと、アスパラカリウム散は経管投与で上澄み液のみを投与すると経口内服と比較し薬効が80%程度まで低下する可能性があります。薬剤をそのまま服用できれば添加物であるエチルセルロース(おそらく結合剤として配合)は強酸で分解され原薬が100%溶出するので問題はないのですが、チューブ閉塞を避けた投与方法を選択する場合は薬効減弱の可能性を考慮した投与設計が必要となるかもしれません。
以上、製剤学の知識を活用したおまけでした。
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