こんばんは、病院薬剤師のポテPです。
病棟業務をしていると、医師から電解質の補充について「どんな薬剤をどのくらい使ったらよいか」という問い合わせをよく受けます。電解質の中で、ナトリウム(Na)はある程度理論的に補充量を求めることができるため今回それを紹介します。(あくまで僕はこうしている、といった紹介になります。)
そもそもNaとは
そもそもNaとはどんな役割を担っているのか。以下に示しました。
Na:細胞外液に多く含まれる1価の陽イオン
・血清Na基準値:138~145 mmol/L
・血圧調節、酸の中和、神経の情報伝達、栄養素の吸収・輸送等に関与
ざっくりとした説明になりますが、細胞外液中のNaの濃い薄いは次のように考えることができます。Naは細胞外液に多く含まれるため、Naの過度な補充や排泄遅延、脱水等で細胞外液中の水分(自由水)不足時は外液中Na濃度は濃くなり(高Na血症)、電解質の少ない(低張な)水分の補充やNaの排泄過多が続けば、相対的に外液中Na濃度は薄くなります(低Na血症)。
高Na血症・低Na血症
それぞれの臨床症状を示します。血清Na濃度異常は脳神経・消化器・筋肉に影響します。
●高Na血症:意識障害、筋けいれん、呼吸抑制
→返事が無い、手が震える、といった症状が出ます。
●低Na血症:食欲不振、悪心・嘔吐、意識障害、けいれん、性格変化
→易怒性が目立つことも。不穏症状の一因だったりもします。
125~130mEq/Lで吐気・気分不快。
115 ~120mEq/L以下で頭痛・無気力・鈍麻・痙攣・昏睡・呼吸停止のリスクがあります。
大半の血清Na濃度異常は医原性であることが多いのが実情のようです。過度な利尿だったり不十分な補液下における感染症等での発熱による水分ロスは高Na血症となり、低張電解質輸液である維持液等を漫然と投与していれば低Na血症になります。
高Na血症の場合、自由水を補充したら改善することが多いです。輸液を用いるのであれば、5%糖液の持続点滴がよく行われるかと思います。
低Na血症の場合はNaそのものを補充する必要があります。低Na血症は薬剤性だったり必要最低限の栄養補充状態(例えば経管栄養)だったり、頭部外傷やくも膜下出血等で生じる中枢性塩類喪失症候群でも発症します。その際、Na欠乏量を求め、補充量を決定します。
Na欠乏量の求め方:mEqとは
ここからが本題です。まず、電解質の量はmEq(ミリ当量:mill Equivalent)で考えます。
「はい、でたでたー。もう分からん~(^O^)/」となる薬剤師さん、多いのでは?笑
僕は「mEqが分からない」と言っていた医師に会ったこともあります。それだけ苦手意識を抱えている人が多い分野なのだと思います。
mEqは電解質の化学的活性(電荷)の単位です。電解質は浸透圧に関わるのですが、浸透圧は電荷によって生じます。なので電解質の補充、つまり浸透圧の調節を考えるには重さではなくmEqを用いる必要があります。
電荷が1価の分子1molが1当量に相当します。なので1mmolなら1ミリ当量に相当します。mEqは次の式で算出できます。
mEq=質量(g)÷ 分子量 × イオンのmol数 × イオン価数 × 1000
1gのNaCl(分子量:58.5、NaとCl 各1mol:1mol)中のNa+のmEqは次のように計算されます。
1g÷58.5×1×1×1000=17.09mEq
NaCl 1g中のNa+は約17mEq相当、と覚えてしまいましょう。
Na欠乏量の求め方:計算編
欠乏量を求める方法は様々あり、今日は2パターン紹介します。
①体重減少量から算出
等張性脱水時の場合、この方法を使います。「純粋に減った体重=水+Na」と考えられるときです。上着に塩が噴き出るほどの多量の汗をかいたり、水様性の下痢や激しい嘔吐があった場合が該当します。Na欠乏量は下記の計算式で算出します。
Na欠乏量(mEq)=体重減少量(kg)×正常血清Na濃度(mEq/L)
分かりやすいと思います。減った体重中にどれだけNaがあったか、それをそのまま欠乏量とみなす計算式です。
②検査値から算出
純粋なNa欠乏症の場合はこちらです。水分の変動はないのにNaのみ低下している場合です。薬剤性の低Na血症はこちらが多い気がします。Na欠乏量は下記の計算式で算出します。
Na欠乏量(mEq)=体重(kg)× 0.6×(健常時Na濃度-現在Na濃度(mEq/L))
体重の60%が体内水分のため、体内水分量算出のため0.6をかけます。これもなんとなくイメージできる計算式ではないでしょうか。
Na補充量を決める
Naの補充は迅速に対応すべきですが、急激な補充は危険と言われており禁忌です。具体的には、Na濃度の上昇量は4~6mEq/L/数時間~1日を目安に、8mEq/L/day以下を遵守する必要があります。急激なNa濃度上昇は脳神経系に合併症を発症するリスクがあるためです。
また、健常時、正常時の血清Na濃度は不明なことが多く、計算結果がそのまま適応できることはあまり多くありません。加えて上記補正速度のリスクもあるため、通常は安全に補充するために算出したNa欠乏量に安全係数1/2~1/3をかけて最終的な補充量とします。
Naの維持量は100mEq/dayが目安です。低Na血症の自覚症状に乏しければ、Na総投与量が100mEqになるよう緩徐に補正することから開始した方がより安全ではあります。また、ベースの血清Na濃度が低値な患者さんではなおさら緩徐な補正が望ましいです。
具体例
補充量が決定したら、現在の補充量を踏まえて最終的な総投与量を設定します。補充方法は補液の追加や切り替え、注射や内服でNaClを追加するのが一般的かと思います。具体例を示します。
頭部外傷後の急性硬膜下出血の患者さん
【投薬指示】
注射:KN3号500mL×2本/日
内服:トラネキサム酸、五苓散
O:
食事摂取量2割 血清Na濃度122mmol/L 体重の著変なし(60kg)
A/P:
悪心による食欲不振の訴えあり。日中落ち着きが無く、不穏症状が目立つ。病態による影響はありそうだが血清Naが低下していることも一因だろう。食事によるNa補充はあまり期待できない。Na補正について医師に上申する。
頭部外傷による影響と、食事摂取量低下による低Na血症を疑います。
現在のNa補充量はほぼ補液だけで、KN3号(維持液)のNa+は50mEq/LなのでNa+として100mEqすでに補充されております。※実はKN3号1000mLで最低限のNa補充はできるのです。よく使われる補液の電解質組成は頭に入れておくと何かと役に立ちます。
状況的に等張性脱水ではなさそうなので、先程の②の計算式で順番に考えてみます。
(1)健常時Na濃度を140mEq/L程度と仮定し、計算するとNa欠乏量は648mEq。
(2)臨床所見的に緊急性はなさそうなので安全係数1/3をかけて計算するとNa補充量は216mEq。
(3)補液ですでに100mEq補充中。不足補充分は116mEq。
(4)NaCl1gでNa+17mEqなので、追加でNaClを6.8g程負荷すれば理論的な補充ができそう。
(5)調剤の手間を考え、より安全な補充をするためNaCl6g(Na+102mEq)/dayがよさそう。
(6)内服はできている。まずは内服での処方※を提案。
上記を踏まえ、 NaCl 6g/朝昼夕 で医師に処方上申。
あとはNa補充期間は定期的な採血フォローを実施し、安全に補正できているかを評価します。
※勤務先の脳神経外科の医師に「注射による補充より経口摂取による補充の方がNaの定着がよい、注射ではすぐに尿中排泄されてしまう傾向がある」と教えて頂いたことがあります。そのため僕は経口摂取できる時は内服での補充を提案することが多いです。(かなり辛いので、ご飯にふりかけたりすると内服しやすいです。今回の例ではあまりご飯を摂取できていないので結局辛いとは思いますが・・・)
実際のところ・・・
色々書きましたが、実際は「えい、やあ」で適当量のNaClが処方されることがほとんです。特に脳神経外科の医師は低Na血症が日常茶飯事なのでしょう、僕の勤務先ではNaClを1.5g(約25.5mEq)刻みで調節することが多いです。内服ならNaCl3.0g/dayからスタート、濃度上昇に乏しければ4.5g/dayに増量、みたいな感じです。状況によっては先の例のように6.0g/dayスタートや9.0g/dayスタート、なんてこともありますが、このように計算してみると大体理論通りの処方であることが理解できます。
※僕が相談を受けた医師は、若手の医師や普段Na補正を必要としない診療科の医師がほとんどでした。
しかし、処方量が適正なのか、安全に補充できているのかを評価することは薬剤師として大切な業務と考えます。機会があれば、今回紹介した内容を是非参考にしてみて下さい。
以上です。
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