こんばんは、ポテPです。先日ちょっと気になる症例を経験したので勉強の意味も込めてブログに残そうと思います。
ARB極量、カルシウム拮抗薬(CaB)2剤極量、利尿剤を内服しているにも関わらず、収縮期血圧170mmHgと降圧不良の高齢患者さんがいました。いわゆる治療抵抗性高血圧に該当すると思います。ここで真っ先に気になったのが、「CaBを2剤併用することに意味はあるのだろうか?」という点です。さっそくCaBの基本的事項について再確認してみました。
※今回薬品名は一般名で統一しています。
カルシウム拮抗薬の分類
CaBは大きく分けてジヒドロピリジン(DHP)系、フェニルアルキルアミン(PAA)系、ベンゾチアゼピン(BTZ)系に分類されます。
●DHP:末梢血管選択性が高い(アムロジピン、ニフェジピン等)
●PAA:心筋選択性が高い(ベラパミルのみ)
●BTZ:DHPとPAAの中間(ジルチアゼムのみ)
PAA系とBTZ系CaBは各1剤しかありませんが、DHP系CaBは多数上市されています。
カルシウムチャネルの分類
DHP系CaBはCaチャネルに作用しますが、Caチャネルは(主に)以下の3つに分類されます。
①L型(Long-acting)Caチャネル
・心臓及び末梢血管平滑筋に存在
・L型Caチャネルを遮断することで細胞内へのCaイオン流入が抑制される
→結果、血管収縮が抑制される
②N型(Neuronal)Caチャネル
・交感神経終末に存在
・N型Caチャネルを遮断することでノルアドレナリンの分泌が抑制
→結果、血圧上昇や心拍数増加が抑制される
③T型(Transient)Caチャネル
・心臓の洞結節・房室結節、腎臓や副腎に存在
・T型Caチャネルを遮断することで心拍数の増加が抑制される
全てのDHP系CaBは①のL型Caチャネル遮断作用を有します。そのためDHP系CaBを使用することで降圧作用が期待できるのですが、一方でL型Caチャネルのみを遮断するCaBでは以下の問題点が生じます。
●L型Caチャネルのみを遮断することによる問題点
(1)降圧作用による反射性頻脈の出現
(2)L型Caチャネルは糸球体の輸入細動脈にのみ存在するため糸球体内圧が増加してしまう
→輸入細動脈のみ拡張し、輸出細動脈には作用しないため
(3)細動脈の強い拡張効果がある一方、細静脈は拡張しない
→浮腫を生じやすい
一部のDHP系CaBは②及び③のN・T型Caチャネル遮断作用も有します。N・T型Caチャネル遮断により、以下の副次効果が得られ、結果的にL型Caチャネル遮断による問題点の改善が期待できます。
●N・T型Caチャネル遮断による副次的効果
(1)心拍数増加抑制により、降圧作用による反射性頻脈を抑制できる
(2)糸球体輸出細動脈拡張作用による腎保護作用が期待できる
→N・T型Caチャネルは糸球体輸入・輸出細動脈の両方に存在するため
(3)N型は細静脈収縮(ノルアドレナリン作用)抑制作用も有する
→浮腫の抑制が期待できる
上記を踏まえ、患者さんの状況に応じてDHP系CaBを使い分けるのが一般的なようです。特に、CaBによる腎保護作用は非常に重要です。
ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の分類
ここで、どのCaチャネルに作用するのかで主なDHP系CaBを分類してみます。
作用するCaチャネル | 一般名 |
---|---|
L型のみ | アムロジピン ニフェジピン マニジピン |
L型+N型 | シルニジピン |
L型+T型 | ニルバジピン アゼルニジピン エホニジピン ニカルジピン |
L型+N型+T型 | ベニジピン |
こんな感じになります。
例えば、アムロジピン(L型遮断)で軽度の頻脈が問題となるようならアゼルニジピン(L・T型遮断)に変えてみる・・・といった使い分けができそうです。(BTZ系のジルチアゼムに切り替えた方がいいのかもしれませんが・・・)
他にも、腎機能低下患者さんに腎保護目的でシルニジピン(L・N型遮断)を用いることは非常に有用だという報告(http://www.arterial-stiffness.com/pdf/no14/068-069.pdf)もあります。
カルシウム拮抗薬の併用は?
さて、CaBについて確認したところで冒頭の疑問に戻ります。
まず高血圧の薬物療法において、治療強度を高めるためには単剤の投与量増量よりも多剤併用の方が良好な降圧が得られると『高血圧治療ガイドライン』に記載があります。しかし、そこには異なった作用機序の薬剤を組み合わせるよう記載されており、同系統薬の併用については言及されておりません。
【治療抵抗性高血圧およびコントロール不良高血圧の対策】の項では「DHP系CaBと非DHP系CaBの併用を試みてもよい」と記載はありますが、DHP系CaBの併用については「原則として同じクラスの薬物の重複は避ける」としか記載がありません。
今回のケースではすでに3系統の降圧作用を有する薬剤が併用されており、なおかつ各薬剤極量まで使用した上でDPH系CaBが2剤併用されていました。(詳細は伏せますが、L型とL型+N型の併用でした。)作用するCaチャネルが異なるCaBを併用していたため、併用による降圧効果の増大が期待できるのかもしれませんが、結局のところよく分からない、というのが現状の自分の中での結論です。
他にも色々調べてみたのですが、慢性腎臓病(CKD)においては十分な降圧+尿蛋白減少(腎保護)目的にL型CaBとN・T型CaBを併用することがある、という見解(https://www.fpa.or.jp/johocenter/yakuji-main/_1635.html?mode=0&classId=0&blockId=40780&dbMode=article&searchTitle=&searchClassId=-1&searchAbstract=&searchSelectKeyword=&searchKeyword=&searchMainText=n)もあるようです。しかし、CKDのガイドラインにはそのような記載はないためこれもソースがはっきりしませんでした。
結局、今回の症例は「血圧を下げるために作用機序の少しでも異なる薬剤を併用した」と考えるのが自然なのでしょうか。DHP系とBTZ系の併用であればガイドライン通りだなと思えたのですが、徐脈傾向になっては困るといった背景もあってDHP系同士の併用に至ったのかもしれません。
疑問に対する回答や結論は得られませんでしたが、カルシウム拮抗薬についてあらためて勉強することができてよかったのかなと思います。
以上です。
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