Sの無い薬歴を書くには(新人薬剤師向け)

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薬剤師業務

こんばんは、ポテPです。今日はSOAP形式の薬歴の書き方について書きます。

「そんなもの大学で習っとるわい!」・・・そんな声が聞こえてきそうですが、果たして本当にそうでしょうか?少なくとも僕は「こんなパターン、授業で聞いたことが無い!」そんな経験ばかりでした。今日の話は、新人さん、特に病院薬剤師で病棟業務を始めて間もない新人さんに参考になれば、と思って書いてみます。

僕が病棟業務で一番最初に困ったことは、ずばり「Sが取れない(訴えや自覚症状を聴取できない)患者さんをどうアセスメント(A)するか」です。というのも、大学の授業で習うSOAPはSありきで展開するため(そうでない大学出身の薬剤師さん、ごめんなさい。うらやましいです)、Sが取れないパターンをそもそも想定したことが無かったためです。今までに実務実習生を何人か受け持ったことがありますが、ほぼほぼ全員がSが取れない患者さんのカルテ記載で悩んでいました。それくらい誰しもが一度は経験することなのだと僕は考えます。

当時の僕「Sが取れない、何もカルテに書けない・・・」

こんな惨めな思いをするのは僕だけで十分です。是非、これからの話を参考にしてみて下さい。

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SOAP形式とは

ひとまず薬剤師向けSOAP形式のカルテについて簡単にまとめます。

S:Subjective Date(主観的データ)
 患者の訴えや自覚症状等、患者の発言
O:Objective Date(客観的データ)
 検査値、併用薬、診察所見等
A:Assessment(分析&評価)
 SOを踏まえた副作用や薬剤相互作用、処方の妥当性などの評価
P:Plan(今後の計画)
 Aを踏まえ、今後どうすべきか

SOあってのAPという構成です。そのためSが不十分だとAPに繋げにくいと感じてしまうのでしょう。

Sが取れない状況とは

では実際にSが取れない患者さんとはどんな状況なのでしょうか。よくあるのは救命救急病棟や集中治療室で挿管中だったり、意識レベルが著しく低下しているような状況です。僕は脳神経外科病棟で勤務していますが、全身状態が落ち着いたため一般床に転棟してきたものの意識レベルが一向に改善しない患者さんの薬歴をよく書きます。声掛けや物理的刺激に全く反応を示さない、なんて患者さんは一般床でも案外大勢いるのです。

Sが取れない状況でどうするのか

結論から書きます。Sが取れないのであれば、Oの情報収集に全力で取り組むしかないです。Oを踏まえてのAPをカルテに記載します。いくつか例を示そうと思います。

例1:くも膜下出血、クリッピング術後の患者さん

【投薬内容】
注射:KN3号、生食、オザグレル、エリル、SBT/ABPC3.0g×3、ニカルジピン
内服(経管投与):ピタバスタチン、プレタール、エパデール、ランソプラゾール
医師指示:収縮期血圧100~160mmHgコントロール

S)
・・・(発語なし。声かけに応答なし)
O)
血圧172/91mmHg 体温38.2℃ 検査値省略(腎機能等は正常範囲)
A)
・血圧指示逸脱しておりニカルジピン開始に。直近数日血圧高値だったことを考慮すればしばらくは継続必要だろう。誤嚥性肺炎治療のためSBT/ABPC投与中。現在オザグレル(希釈液生食)以外の注射が本体KN3号の側管より投与されているが、ニカルジピンとSBT/ABPCは配合禁忌。別ルートからの投与推奨。
・看護師に確認したところ、痰の貯留が著しいよう。少しでも誤嚥リスク軽減のため一時的に去痰薬(カルボシステイン+アンブロキソール)を使用してみるのはどうだろうか。
P) 配合変化回避のため3本目の末梢確保について、また、去痰薬の使用について主治医に相談。

ところどころ省略してますが、上記のようなAはどうでしょうか?

①血圧指示を逸脱しているためニカルジピンが開始となっていますが、配合禁忌のSBT/ABPCと同時滴下指示になっています。ニカルジピンは十分な降圧得られるまで持続投与するため、他薬剤と同一ルートでは他剤との配合変化が避けられない状況です。そのためニカルジピン専用ルートの確保が望ましい、と評価しました。※オザグレルは24時間持続投与+流量が可能な限り変動しないことが望ましいため、単独投与を指示する脳神経外科医が多い印象です(少なくとも僕の勤務先の医師はそう)。

②痰貯留が多く、誤嚥リスクが高いため去痰薬の使用を提案しています。提案するだけなら簡単ですが、ここでは「痰貯留が多い」という客観的情報を看護師さんから引き出しているのがポイントです。薬剤師が面談しただけでは痰がどのくらい多いのかまで把握するのは困難なことが多いです。日々痰の回収をはじめとした看護ケアをしている看護師さんならではの情報だと思います。各種医療スタッフが持つ情報をいかに収集するかも大切と考えます。

 

例2:開頭術後、重度の髄膜炎を発症した患者さん

【投薬内容】
注射:KN3号、MEPM2g×3、VCM
内服(経管投与):ランソプラゾール、アムロジピン

S)
・・・(発語なし)
O)
髄液培養(結果待ち) 検査値省略(VCM開始後、腎障害所見なし。VCM濃度は適正範囲)
A)
・髄膜炎治療のためMEPM+VCMで加療中。髄液培養は明日結果出ると細菌検査室に確認済み。結果次第では抗菌薬de-escalationできそうか。
・VCMは目標濃度域で安定。腎障害は認めず。看護師に確認したところ、清拭時に皮膚異常所見は認めなかったよう。
P)
明日、髄液培養結果の確認。それを踏まえた投薬指示を確認する。

例2も重篤な感染症のため意識レベルが悪くSが取れないパターンです。

①抗菌薬の選択が妥当かどうかを培養結果から確認しようとしています。この際、最速で行動できるよう、関連部署(今回は検体培養を担当する細菌検査室)に検査結果がいつ得られるかを確認しています。それをもとにあらたな投薬指示が出されるかすぐに確認しよう、とPに繋げています。

②VCMの有害事象としてレッドネック症候群をはじめとした薬疹があります。薬疹の有無は皮膚を見ればある程度確認できますが、薬剤師が面談時に布団をひっぺがして衣服をずらして確認するのは少し難しいと思います。勝手にやってモニター等に触れて看護師さんに怒られてしまう可能性もあります。今回の例でも看護師さんから皮膚所見に関する情報を引き出しています。とにかくOの情報量を増やすためには他職種とのコミュニケーションが非常に大切だと考えます。

 

どうでしょうか。ごくごく一部の例ではありますが、Sが取れない場合、薬剤師としてどう介入するか、どう薬歴に記録を残すか少しイメージできたことを期待します。

僕はOの情報量を少しでも増やすため、常日頃から他職種とのコミュニケーションを非常に大切にしています。大学ではコミュニケーション、コミュニケーションと口うるさく言われてきたとは思いますが、こういう場面でも絶大な効力を発揮するのだと実感しています。

以上です。

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