製剤研究職って何するの(小さな会社の場合)

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自己紹介

こんにちは、病院薬剤師のポテPです。
今日は新卒で入社した会社でやっていた仕事のことを書こうと思います。就職先で迷っている学生さんが職業像をイメージできればいいかなぁ、と思って書いてみます。
僕が新卒時に就職活動をしていた時に感じたことですが、実際の業務内容を少しでも知っていると「自分のスキルをどう就職後に活かすことができるか」といった面接時の質問に答えやすかったり、具体性を持たせることができます。これだけで「しっかり勉強してきているな、自分のことをよく分かっているな」といったように、面接官への印象は格段によくなる傾向があるように思えます。※参考までに

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製剤研究者としてやってたこと

僕が就職した製薬会社は製薬会社としては凄く小さな会社でした。そのため、一般的な製薬会社での勤務内容と大きな乖離がある点に注意です。
本当に小さな会社だったため、かなり幅広い業務を任されていました。研究所勤務の人数はざっと20名ほどだったかと思います。とりあえず書き出してみます。

①処方設計・ラボスケールでの試作
②スケールアップ・工業化研究・バリデーションの実施
③分析法の確立
④安定性試験、加速試験のデータ収集・解析
⑤特許調査・特許出願
⑥薬事申請に関わる書類作成

メインの業務はこんな感じでした。これ、本来であれば生産技術や分析研究、知的財産管理部、薬事部の業務も含まれていると思うのですが、なんだかんだ1人でやらざるを得ない状況でした。なので研究職というよりは技術職と名乗ったほうが適切だったかもしれません。しかも今思えば研究といっても「基礎研究」ではなく「製品開発研究」の方ですね。

処方設計・ラボスケールでの試作

上司からテーマが与えられ、どう製剤化するかを考えます。錠剤であればどれくらいのサイズにするのか、添加物はどれくらいの比率で使用するのか、どんな製造方法を用いるのかを考えます。

添加物1つとっても、かなりのことを考えなければなりません。例えば「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」というものがありますが、品種(グレード)が複数存在するのはご存知でしょうか?
錠剤化した際に崩壊性に優れるものの成形性が悪く錠剤硬度が得られにくいものもあれば、その逆だったり、中間グレードなんてものもあります。どのグレードを選択するか、選んだ添加物を全体の何%にすると一番よいのか、ということを検討するだけでもかなりの試作を繰り返す必要があります。

ラボスケール試作は数g~数kg程度で検討することが多いですが、僕が担当した品目では数十回程度の試作で終わるようなものではありませんでした。(100超えることもありました・・・。)

スケールアップ・工業化研究・バリデーション

ラボスケールでの検討を終えたら、それを大量生産するための研究に移ります。工業化研究と呼ばれます。一般的な製薬会社であれば、ここからは生産技術の方の領域になります。

ラボスケールで問題が無くても、実際の製造スケール(ロット単位での製造:数百kg~t単位)に移管した場合、大体問題が生じます。例えば、スケールアップの結果、有効成分が均一に混ざらなかったり、重量の莫大な増加による製剤原料への負荷が思いもよらぬ結果を招くことはよくあります。この部分を修正し、最終的な製造条件を設定します。製造ラインのスタッフとも連携し、いかに効率的な条件に落とし込めるかが肝心です。作業者のことも考えた条件設定が必要です(コミュニケーション能力が試されます)。
また、1回の試作にかなりの時間・費用を要する(原料費、機械操作のための人件費、稼働ラインを使用するため生産スケジュールの調整等)ため「失敗しましたゴメンゴメン」ではすまないことがほとんどですので緻密な事前計画が大切です。「予想外の結果が出てしまった、どうするか」といった決断を求められる場面もありますので、臨機応変な思考も必要です。

バリデーションとは医薬品・医療機器を製造する工程や方法が正しいかどうかを検証するための一連の業務で、科学的根拠や妥当性があるかを調査することをいいます。例えば、有効成分の均一性を保証するため製造の各ポイントで複数個所からサンプリングし、有効成分含量が理論値通りであることを分析試験で証明する、といった作業を行います。どのタイミングでどれだけサンプリングすると妥当性を証明できるかを考えます。

分析法の確立

分析研究の領域になります。日本薬局方の医薬品各条を見ると、確認試験や定量法、といった項目があると思います。この設定を行う研究です。
例えば定量法では有効成分の含量測定にHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を使うことがありますが、要はHPLCの条件設定みたいなことを行います。成分の抽出方法やカラムの選定、移動相の組成検討等です。有機溶媒は何でもかんでも好き勝手使えるわけではありません。環境への配慮や1回の試験にかかるランニングコストも意識する必要があります。

安定性試験、加速試験のデータ収集・解析

一定の条件下で検体を保管し、製剤の安定性等を評価します。この辺りも分析研究でしょうか。会社によっては品質管理部門の業務かもしれません。一般的には1つの保存条件に対して3ロット、n=3のデータを収集します。なので包装形態や保存条件が増えれば増えるほど検体数はえげつない数になっていきます・・・。
一例ですが、HPLCの事前処理(有効成分の抽出等)を雑に行うと結果が大幅に乱れ、正しいデータが得られません。そのためかなりの集中力と丁寧な操作が要求されます。検体数が増えれば増えるほど大変です。僕は就職したての頃ホールピペットの扱いに苦労した記憶があります。
品質管理業務は集中力や丁寧な性格の方が向いている、とよく言われるのはこの辺りが理由だと個人的に思ってます。飽きっぽい性格の人や雑な性格な人は本当にこの仕事(品質管理)に向きません・・・

特許調査・特許出願

特許の取得は研究者の醍醐味ではないでしょうか?(まぁ結局会社の財産にされてしまうのですが・・・)僕は退職後に自分の研究が他人名義で特許出願されていることを発見して何とも言えない気持ちになりました・・・

まず特許調査についてですが、画期的な製造方法を思いついたとしてもそれが他社の特許技術であれば一般的には使用することができません。知らずに(もちろん故意にも)特許侵害となった場合、時には会社にとって甚大な損害となります。なのでラボスケールでの試作開始と同時に製剤技術に関する既存の特許について調査することが大切になります。

特許出願に関しては、自社の技術を特許で保護することでうまくいけば特許期間(法律は20年だが、発売までに数年かかるため一般的にはもう少し短い)は利益を独占できます。特にOTC(一般医薬品)では一般販売が解禁となる成分含有製剤を開発する場合、ほぼ全会社が横並びで開発開始となります。いち早く製剤化に関する特許を取得できれば、他社は製剤化(製品化)を諦めるか、別の方法を検討し直さなくてはなりません。一例ですが、特許はこのようにして会社に利益をもたらします。

ちなみに僕は、就職してから知的財産管理技能士3級の資格を取得しました。3級は大した資格ではないのであまり意味は無いのですが、学生でも取得できる資格です(なんと国家資格です!)。知的財産管理部門に興味のある学生さんは就職前に取得してるとアピールポイントの1つに使えるかもしれません。リンク貼っておきます→http://www.kentei-info-ip-edu.org/

薬事申請に関わる書類作成

収集・解析したデータをひな型に沿って書類にする作業です。あまり思い入れはないです爆
誤字脱字を上司に死ぬほど指摘された思い出しかないです笑

当時働いていた感想

仕事自体はものすごくやりがいがあり、楽しいものでした。特に試作や処方設計はモノ造りをしている感が満載で、口腔内崩壊型の製剤の味を作るために香料の選定や甘味料の配合比率を考える作業は本当に楽しかったです。反面、緻密な作業と集中力を要求される分析業務は苦痛でしたが笑
けしてアカデミックな内容だったり、ハイレベルな業務ではありませんでしたが、自分の開発した製剤の製品化に最初から最後まで関わることができたのはいい経験だったと思います。一般的な製薬会社ではここまで多岐に渡る業務に触れることはまずありえません。講習会などで他社の技術者とお話しする機会もありましたが、自分の業務内容の範囲を話すと驚かれることが多かったです。

ただし、残酷な現実もあります。これだけ1人に広範囲の業務を任せるということは業務の細分化ができていません。細分化ができていない会社、というのは弱小企業であることが多いです。弱小であるということはお金がありません。そう、給料がめちゃくちゃ安かったのです(退職理由はこの辺が大きかったです)。残業の申請もしにくかった(サービス残業の嵐だった)ため、30代で年収400万円に届くかどうか、といった状況でした。

結局今は病院薬剤師をしていますが、当時は給料以外は満足していました。それほどにやりがいや達成感は十分ありました。今でも自分が開発した製品を見かけるととても嬉しくなります。

学生さんで技術職志望の方いましたら、小さな会社の製剤研究職の一例として参考にしてみて下さい。業界研究の一助になれば幸いです。

以上です。

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